トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーについて知る
症状
監修:信州大学医学部 脳神経内科、
リウマチ・膠原病内科 教授 関島 良樹 先生
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの症状は?
初期症状は、足先のしびれ感、脱力、原因不明の緑内障や硝子体混濁などの眼の症状、男性ではインポテンツなど、人によりさまざまな症状がみられます。50歳以後で発症するタイプの患者さんの場合1)、手足のしびれ感や脱力などの前に、心臓に障害があらわれる方もいらっしゃいます。主な症状を以下に示します。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーにみられる症状
循環器系の症状
不整脈や動悸(胸がドキドキする)が現れ、最終的に心不全に至ることがあります。心臓はアミロイド沈着が起こりやすい臓器の一つといわれています。
消化器系の症状
便秘から始まり、進行すると下痢と便秘を繰り返すようになります。便秘がひどい方では、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。さらに進行すると激しい下痢が続き、栄養が十分とれなくなる場合があります。これらは自律神経の障害によって起こる症状です。
脚の症状
・足先の温感がなくなったり、足先にピリッという痛みやしびれ感や違和感(つったような痛み、リウマチの様な痛み、砂を踏んだような感じ、と例える方もいらっしゃいます)が出たりします。ふだん履いている健康サンダルが痛く感じるようになる方もいます。これらの症状は感覚神経が障害されることで起こります。
・足先の脱力や、うまく歩けないといった症状がみられます。これらは運動神経の障害によって筋力が低下して起こる症状で、一般的には感覚神経障害の症状よりも遅れてあらわれますが、50歳以降に発症するタイプでは、感覚神経障害と同時にあらわれることもあります。
脳(中枢神経系)の症状
・脳の血管や髄膜にアミロイドが沈着することにより、一過性に手足が動かしにくくなったり、異常な感覚を感じたり、しゃべりにくくなったりすることがあります。放置すると脳出血を起こすこともあります。
自律神経系の症状
・めまい、立ちくらみといった起立性低血圧の症状があらわれ、意識を失うこともあります。
・唾液が出にくくなることがあります。
眼の症状
・硝子体と呼ばれる部位にアミロイドがたまることで混濁して、ものが見えにくくなることがあります。
・眼圧が上昇して、緑内障になることがあります。
・涙が出にくくなって、ドライアイの症状があらわれることがあります。
手の症状
・指先のしびれがみられることがあります。これは手根管症候群と呼ばれる末梢神経障害の一種によって起こる症状です。
・温感が鈍ることがあります。これは感覚神経が障害されてあらわれる症状です。
泌尿器系の症状
・尿の出が悪くなったり、残尿感があったりします。これらの症状は自律神経の障害によって起こります。
・男性では、勃起障害や射精障害があらわれることがあります。これらの症状は自律神経の障害によって起こります。
その他の症状
・汗をかきにくくなることがあります。これは自律神経の障害によって起こる症状です。
・疲れやすくなることがあります。これは甲状腺にアミロイドが沈着して、甲状腺の機能が低下することによって感じる症状です。
・急激な体重減少が起こることがあります。
1)植田光晴ほか: "遺伝性ATTRアミロイドーシス/トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー"最新アミロイドーシスのすべて --診療ガイドライン2017とQ&A 安東由喜雄監修1 医歯薬出版: 32, 2017
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーはどのような経過をたどるのですか?
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの発症は緩やかですが、その後、症状は徐々に悪化し、症状の範囲は足から手・腕へと広がっていきます。感覚神経の障害が進んで足の感覚がなくなり、筋力が低下して歩行が困難になった場合には、車椅子を使用することもあります。
そのため、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された場合は、自覚症状の有無にかかわらず、できるだけ早くから治療を始める必要があります。
関係ないと思っていた2つの症状、どちらもトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに由来しているかも?
たとえば「足先がしびれる」、「下痢と便秘を繰り返す」という2つの症状は、別々の原因を考えてしまいがちですが、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの場合、どちらの症状もあらわれる可能性があります。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーでは、アミロイドと呼ばれるタンパク質のかたまりがいろいろな臓器にたまっていくことで、末梢神経や臓器の障害が引き起こされ、さまざまな症状があらわれます。
そのため、「この症状は関係ないだろう」と自己判断せずに、少しでも気になる症状があれば主治医に伝えるようにしましょう。
※トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、遺伝性ATTRアミロイドーシス、ATTRvアミロイドーシス、hATTRアミロイドーシス、ATTR-FAP、TTR-FAP、FAPと呼ばれることがあります。