監修:信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授 関島 良樹 先生
ご家族に病気を伝えるには
臨床心理士からの
メッセージ
自分の思いを、自分のペースで、自分の言葉で
どんなことでも安心して話ができる、聴ける場所があります
信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部 臨床心理士
玉井 眞理子 先生
1996年に信州大学医学部附属病院で遺伝子診療部の遺伝相談外来がスタートした翌年から、臨床心理士(いわゆる「こころの専門家」)として、これまで遺伝カウンセリングに携わってきました。「遺伝」と聞くと、どこか特別なイメージを持つかもしれません。しかし、遺伝性の病気に関する悩み、親と同じ病気に自分もなるのかどうか、自分の病気が子どもや孫に遺伝するのかどうかといった不安は、実は誰にでも起こりうることなのです。それは思いがけないことかもしれませんが、正面から真剣に向き合わなくてはならない人生の大事な問題となるため、想像以上に大きな戸惑いや悩み、苦しみをともないます。そうした状況にある方のお話に耳を傾けて共に考え、よりよい人生を歩んでいただくお手伝いをするのが遺伝カウンセリングにおける臨床心理士の役割です。
遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、看護師、臨床心理士などのチームにより対応しています。病気に関する情報はインターネットなどですでに勉強されていたり、ご家族や親せきに同じ病気の方がいらした経験からよくご存知の方もいらっしゃると思います。ただし、認識している情報が断片的であったり、実際には患者さんご本人に当てはまらない場合もあるため、遺伝カウンセリングの最初の段階では専門医の先生から遺伝の仕組み、病気について、また、現在行われている治療法や新たな治療研究の話などを聴いて、病気について正しく理解していただくことが大切です。これによって情報が整理されて安心される方もいらっしゃれば、これまでの経験とつながることで「なるほど、そういうことだったのか」とあらためて納得される方も多くいらっしゃいます。
新しい選択肢が見つかるかもしれません
自分ひとりで悩みや不安を抱え、「どうしよう」という思いが渦巻いているとき、「はっきりさせなければ」「答えを出さなければ」という気持ちで押しつぶされそうになったり、誰にも相談できず「どうしたらいいのかわからない」と立ち止まったりしてしまうことがあるものです。そんな時は専門医の先生から病気の話を聴くだけでなく、安心して自分の話ができる場所として遺伝カウンセリングを活用していただけたらと思います。
ゆっくり丁寧にお話を聴きながら、その方にあった解決法を考えていくためのお手伝いをするのが私たちの仕事です。病院で話をするとなると、最初は構えてしまうかもしれませんが、どんな些細なことであっても、たとえうまく話ができないとしても、全く気にする必要はありません。「こんなことを話していいのかな」と躊躇することなく、自分の思いを自分の言葉、自分のペースで気楽に伝えていただけたらと思います。
そもそも悩みや不安に対する答えはたったひとつではありませんし、AかBかの二者択一だけでもありません。実は、自分が考えている以上に選択肢はあるものです。遺伝カウンセリングを通して思いがけない新たな選択肢が見つかる可能性もあります。選択肢そのものにたどりつかなくても、「そういう考え方もあったのか」「そんな見方もできるのか」など、新たな地平が開けることもあります。自分らしいあり方を選択していただけるように私たちは共に考え、サポートしていきます。
これまで出会った方々の中には、遺伝カウンセリングを受けるまでに決して短くない時間がかかった方もいらっしゃいます。そういった方に対しては「もっと早く来てくださればよかったのに」ではなく「来られずに悩まれていた時間も、あなたにとっては重要な意味を持った時間だったのですよね」という思いでお迎えしています。おひとりで悩みを抱えられたり、なかなか前向きになれない状況もあると思います。そのような時には、共に悩み、考える時間を共有する相談相手として、臨床心理士や遺伝カウンセラーを構えずに訪れていただけたらと思います。
臨床心理士として、これからも遺伝の悩みや不安を抱える方々に寄り添っていきたいと思います。また、遺伝カウンセリングがより身近な相談窓口として多くの医療施設に広がっていくことを期待しています。
文中に登場する所属、肩書、数字情報などは、取材当時の内容にて記載しています。
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